交通事故で仕事を辞めることになった場合の休業損害について

交通事故による怪我で仕事を休んだ場合には、休業損害を請求できます。交通事故の被害に遭ってしまった方の中には、仕事を休むのではなく辞めざるを得なくなったという方もいらっしゃるでしょう。
休業損害は、仕事を休んだ場合だけでなく、仕事を辞めることになった場合でも請求できる可能性があります。この記事では、休業損害とは何かを説明したうえで、退職後の休業損害を請求するための要件、期間、金額などについて解説します。
休業損害とは
休業損害とは、交通事故の怪我で休業したことによる収入の減少を補填するものです。
休業損害の額は、交通事故前の3か月間の平均給与を基準に算定されます。休業損害を請求できる期間は、症状固定までの期間のうち怪我や、怪我の治療が原因で出勤できなかった期間です。
交通事故で負傷した場合でも、怪我の程度や治療の経過などから、業務に復帰できる状態であるにもかかわらず、本人の意思で休業を続けた場合は、休業損害は請求できません。つまり、休業損害を請求するには、怪我が原因で仕事を休まざるを得なかったという因果関係が必要です。
退職後も休業損害を請求できるか
休業損害を請求できるのは在職中だけではありません。交通事故で仕事を辞めざるを得なくなった場合には、退職後でも休業損害を請求できる可能性があります。
ここでは、退職後の休業損害を請求できる要件、期間、金額について、それぞれ詳しく解説します。
退職後の休業損害を請求できる要件
退職後の休業損害を請求するための要件は、次の3つです。
- 交通事故による怪我が原因で仕事ができなくなったこと
- 会社都合で退職したこと
- すぐに再就職することが難しい状況であること
1つ目の要件としては、怪我が仕事の内容に影響を与えるものであることが必要です。交通事故で怪我をした場合でも、怪我の内容・程度が仕事内容に影響を与えるものでなければ、怪我が原因で仕事ができなくなったとは言えません。
たとえば、怪我で重い物を持てなくなってしまった場合、被害者の職業が荷物の運送業であれば怪我と退職との因果関係が認められやすいです。一方、被害者の職業が事務所内でのデスクワークの場合には、怪我で仕事ができなくなったとは言えないでしょう。
2つ目の要件について、自己都合で退職した場合には、仕事を辞める必要はなかったと判断されやすいです。会社都合で解雇されてしまった場合には、怪我が原因で退職せざるを得なかったと判断されます。
最後に、退職後の休業損害を請求するには、すぐに再就職して収入を得ることが難しい状況であることが必要です。怪我が原因で解雇されてしまった場合でも、すぐに他の職種で再就職できるのなら休業損害の請求は認められません。
退職後の休業損害を請求できる期間
退職後の休業損害は、再就職するまでの期間分を請求できます。ただし、就職先が決まらない場合でも、再就職するまでにかかる相当期間が経過すると、その先の休業損害は請求できなくなります。
たとえば、退職から3か月後に就職先が決まっていない場合であっても、怪我の状態から2か月もあれば再就職が可能と判断されるのであれば、休業損害を請求できるのは2か月分だけです。
なお、退職後の休業損害については、再就職可能と判断される場合には症状固定前であっても、再就職するまでにかかる相当期間に限定される可能性があります。
退職後の休業損害の金額
休業損害の金額は、基本的には在職中の休業損害と同じ金額で計算されます。つまり、会社員の場合には、事故前3か月間の平均給与を基準に1日当たりの金額が算定されます。
たとえば、事故前3か月の給与が29万円、31万円、30万円で3か月間の日数が90日の場合、1日当たりの金額は1万円です。休業損害の額は、1万円に「再就職するまでの期間」もしくは「再就職するまでにかかる相当期間」を乗じた金額となります。
そもそも交通事故を理由に解雇されることはあるのか?
法律上、会社が労働者を解雇できる場面は制限されています。そのため、交通事故で働けないことだけを理由に解雇するのは解雇権の濫用として認められません。
さらに、労働者が業務に起因する怪我や病気によって休業している場合には、治療中および治療の終了から30日間は解雇が禁止されています(労働基準法19条)。
そのため、交通事故の怪我を理由として会社が労働者を解雇できるのは、次の場合に限られます。
- 業務外の交通事故で負傷して、怪我の程度から復帰の見込みがないとき
- 業務中の交通事故で負傷して治療を終えたものの、従来の業務に復帰できる見込みがないとき
ただし、後者の場合には、業務内容を変更して雇用を継続する工夫をしたにもかかわらず、業務を継続するのが困難な場合でなければ解雇できません。
交通事故による怪我と退職・解雇の問題については、複雑な問題を多く含むため、早めに弁護士に相談することをおすすめします。