交通事故の証言に嘘があった場合に受けるペナルティとは?

交通事故の被害者として証言したり、目撃者として証言することがあります。被害者としてはより多くの損害賠償をもらいたいという趣旨から、目撃者としては被害者に損害賠償を得させたいという趣旨から、嘘の証言をすることが考えられます。さらに、加害者も自分の責任を否定したり、刑事事件の追及を逃れたりするために嘘の証言をすることがあります。
交通事故において嘘の証言をするとどのようなペナルティを受けるのでしょうか。
本記事では交通事故の証言に嘘があった場合に受けるペナルティについて解説します。
交通事故の証言に嘘があった場合に受けるペナルティ
交通事故の証言に嘘があった場合に受けるペナルティとしては次のものがあります。
証人が裁判で嘘をついた場合の偽証罪
裁判で証人として呼ばれた場合に嘘をつくと偽証罪に問われます。
刑法第169条は、「法律により宣誓した証人が虚偽の陳述をしたときは、三月以上十年以下の懲役に処する。」と規定しています。刑事裁判や民事裁判では、証拠調べとして過去の経験を法廷で証言する人を証人といいます。法廷では真実のみを語ることを宣誓して証言をするのですが、虚偽の陳述をした場合には偽証罪に問われます。裁判の種類を問わず、民事・刑事のいずれの場合でも、交通事故の損害賠償請求や刑事事件において証人として偽証をした場合は、偽証罪に問われます。
なお、偽証罪が成立するのは裁判における証人の場合であり、損害賠償の交渉段階で嘘をついても刑事罰には問われません。
当事者が民事裁判で嘘をついた場合
証人ではなく当事者が裁判で嘘をついた場合、10万円以下の過料が科されることがあります。
民事裁判で当事者が裁判所から尋問されることがあります。民事訴訟法第209条第1項は「宣誓した当事者が虚偽の陳述をしたときは、裁判所は、決定で、十万円以下の過料に処する。」としています。過料とは行政上の秩序の維持のために違反者に課す金銭的な負担で、罰金や科料という刑事罰とは異なるので、前科とはなりません。証人とは異なり当事者は自己の主張を有利に導くために虚偽の陳述をすることがあるので、偽証罪よりは軽いものとなっています。
なお、刑事事件において被告人が嘘をついても、それを処罰する規定はありません。
嘘をついて損害賠償を請求した場合の詐欺罪
虚偽の申告により損害賠償を請求した場合、詐欺罪に問われます。
たとえばむち打ちを装って相手に対して損害賠償を請求したような場合、刑法第246条により詐欺罪が成立します。この場合に診断書を偽造したような場合には私文書偽造罪や行使罪(刑法第159条)が成立することもあるので注意が必要です。
虚偽の申告による損害賠償の返還
嘘をついて受け取った示談金の返還などを求められます。
虚偽の申告により受け取った示談金が発覚した場合、刑事事件となる可能性があるほか、民事でも返還請求の対象となります。法的には、虚偽の申告に基づく示談金の請求は法律上の根拠を欠くため、民法上では不当利得となり、不当利得返還請求権(民法第703条)に基づいて返還が認められます。
また詐欺行為は不法行為であり、支払った示談金が不法行為損害賠償請求としても認められることがあります。嘘をついて金銭を支払わせたことについての慰謝料や、遅延損害金なども付加されるので注意が必要です。
交通事故の加害者が嘘をついた場合の刑事罰
交通事故の加害者が嘘をついた場合、刑事罰が科される可能性があります。
刑事事件の加害者が人にケガをさせたり死亡させた場合には、自動車運転過失致死傷罪(自動車運転死傷処罰法第5条)や危険運転致死傷罪(自動車運転死傷処罰法2条)に処せられます。この際、過失がないと偽ることがありますが、嘘をつくこと自体を処罰する法律はありません。もっとも、嘘をついていたことで犯罪が悪質であるとして、選択される刑の種類や、刑の重さに影響することがあります。
交通事故の加害者が嘘をついている場合には慰謝料が増額される可能性がある
加害者が虚偽の証言をした場合、慰謝料が増額される可能性があります。
交通事故の被害者が加害者に対して精神的苦痛に基づく慰謝料の請求をします。加害者の虚偽の証言が繰り返された場合、被害者の精神的苦痛が増すため、慰謝料が増額されることがあります。
まとめ
本記事では交通事故の証言に嘘があった場合や、被害者・加害者が嘘をついた場合などについても解説しました。
裁判手続きで証人として証言する場合には偽証罪としての処罰があるとともに、被害者が被害について嘘の証言をして加害者に請求すると詐欺罪に問われるなどの刑事事件に発展することがあります。また、加害者の虚偽の証言によって、刑が重くなったり、慰謝料が増額されることがあるため注意が必要です。