交通事故の損害賠償請求に関する時効について

交通事故の被害に遭った場合、相手に対して損害賠償請求をしますが、相手がのらりくらりとかわし続ける場合に注意すべきなのが時効です。時効は刑事事件でよく耳にしますが、民法上の請求権にも適用されます。最悪の場合、相手が時効を主張すると、損害賠償請求ができなくなる恐れがあります。
そこで、本記事では交通事故の損害賠償請求の時効について解説します。
交通事故の損害賠償請求には時効がある
交通事故の損害賠償請求は、法律で定められた条件を満たすと時効が適用されます。その条件を確認しておきましょう。
民法上の債権には時効の制度がある
民法上の債権には時効の制度があります。
債権とは、人に対して一定の給付を求める権利のことです。債権は、民法第166条に規定されており、一定の条件を満たすと時効により消滅します(消滅時効)。
時効といえば、刑事事件で一定期間が経過すると犯人が逮捕されなくなる制度として知られていますが、民事にも時効制度があります。
交通事故の損害賠償請求権は民法第709条の損害賠償請求という債権
交通事故の損害賠償請求権は民法第709条の損害賠償請求という債権に基づいて請求できます。
交通事故の加害者は、被害者の生命・身体・財産に対して損害を与えたものであり、民法第709条所定の要件に沿って損害賠償請求ができます。この権利は被害者が加害者に対して金銭を請求する債権です。
交通事故の損害賠償請求権の時効は、3年または5年
交通事故の損害賠償請求権の時効は、3年または5年です。
交通事故の損害賠償請求権は、上述したように債権という法的な性質を持っています。債権は時効となるので、交通事故の損害賠償請求権も時効にかかります。
交通事故の損害賠償請求権が時効となる要件
交通事故の損害賠償請求権は、民法の規定により時効が適用されます。では、時効が成立するための要件とは何でしょうか?
交通事故の損害賠償請求権が時効となる要件は、以下の3つです。
- 一定の期間が経過している
- 時効の更新・完成猶予が成立していない
- 債務者である加害者が援用をする
一つずつその内容を確認しましょう。
一定の期間が経過している(3年または5年)
一定の期間が経過していることが必要です。
時効は一定の期間が経過した後に成立するものです。債権の消滅について、原則となる民法第166条では5年の期間が規定されています。しかし、不法行為損害賠償請求については民法第724条・第724条の2に特別の規定が置かれています。
まず、民法724条では、不法行為の損害賠償請求権については、通常の債権よりも短い3年の消滅時効を定めています。もっとも、民法第724条の2では、人の生命又は身体を害する不法行為については原則に戻り5年と定めています。
交通事故の場合、時効の期間は以下のように異なります。
- 物損事故:3年
- 人身事故:5年
交通事故とひとくくりに言っても、物損事故か人身事故かで時効の期間が変わることを知っておきましょう。
また、自分の保険会社に保険金を請求する場合や、自賠責保険に被害者請求をする場合は、保険法第95条により時効期間が3年となる点に注意が必要です。一方、相手の保険会社への請求は保険金請求には該当しないため、時効期間は5年となります。
時効の更新・完成猶予が成立していない
時効の更新・完成猶予が成立していないことが要件の2つ目です。
時効期間中に、債権者は時効の成立を阻止することができます。そのための制度が時効の更新・完成猶予です。時効完成が迫ってきたときに催告を行った上で裁判を起こすことがあります。催告を行うと、半年間の時効完成猶予が成立します(民法第150条)。また、裁判を起こして勝訴判決を得ると、時効が更新されます(民法第147条第2項)。
時効の更新をしたときには、その時からまた期間の計算を1からすることになります。
もし加害者への損害賠償請求の時効が近い場合には、時効の更新・完成猶予といった手段を取る必要があるので、早めに弁護士への相談をおすすめします。
債務者である加害者が援用をする
損害賠償請求では、加害者(債務者)が時効の援用を行うことが、3つ目の要件です。
時効は3年もしくは5年が経過すればそこで成立するわけではなく、債務者(交通事故では加害者)が援用をすることで成立します(民法第145条)。時効の援用とは、時効により債務が消滅する利益を受けるための意思表示のことです。
まとめ
本記事では、交通事故の損害賠償請求の時効について解説しました。
交通事故の損害賠償請求権については、時効の制度によって請求できなくなる期限があります。時効になってしまうとどんなに大きな事故でも補償をしてもらえなくなるので、注意が必要です。時効期間が迫っている場合は、内容証明の送付や裁判の提起などの措置が必要となるため、早めに弁護士に相談しましょう。