視力障害|後遺障害認定のポイントは?
交通事故に遭い、症状固定時に視力障害の後遺症が残った場合、その症状の内容や程度が、自動車損害賠償法施行令が規定する後遺障害等級表(別表第2)のどの等級に該当するかによって、被害者が得られる損害賠償金が大きく違ってきます。
被害者にとっては、適切な後遺障害等級認定を受けられるかどうかが重要になります。そのためには、交通事故に強い弁護士に依頼すべきだといわれています。
では、視力障害の後遺症が残った場合、後遺障害認定のポイントは何なのでしょうか。以下においては、視力障害についての基本的な説明および後遺障害認定のポイントなどについて解説します。
眼の後遺障害
眼の後遺障害には、眼球の障害と眼瞼(まぶた)の障害があります。視力障害は、眼球の障害の一つです。
眼の後遺障害の検査には視力の測定を用います。
視力の測定は、万国式試視力表によります。屈折異状のあるものについては、矯正視力について測定します。万国式試視力表とは、「ランドルト環」や「アラビア数字」で作られたものをいい、検査距離は通常5mで行われます。
「ランドルト環視力表」は日本でお馴染みの「cマークの切れ目が上下左右にあるもの」を用いたものです。
視力障害
視力障害とは、失明や視力低下を伴う障害のことをいいます。
視力障害の原因
交通事故によって、眼球そのものに外傷を負ったり、あるいは頭部外傷により視神経を損傷したりすることにより、失明や視力低下といった症状が生じることがあります。
- 1級1号(両眼が失明したもの)
- 2級1号(1眼が失明し、他眼の視力が0.02以下になったもの)
- 2級2号(両眼の視力が0.02以下になったもの)
- 3級1号(1眼が失明し、他眼の視力が0.06以下になったもの)
- 4級1号(両眼の視力が0.06以下になったもの)
- 5級1号(1眼が失明し、他眼の視力が0.1以下になったもの)
- 6級1号(両眼の視力が0.1以下になったもの)
- 7級1号(1眼が失明し、他眼の視力が0.6以下になったもの)
- 8級1号(1眼が失明し、または1眼の視力が0.02以下になったもの)
- 9級1号(両眼の視力が0.6以下になったもの)
- 9級2号(1眼の視力が0.06以下になったもの)
- 10級1号(1眼の視力が0.1以下になったもの)
- 13級1号(1眼の視力が0.6以下になったもの)
用語の説明(クリックで開閉)
- 失明とは、眼球を亡失(摘出)したもの、明暗を区別できないもの、ようやく明暗を区別できる程度のものをいい、光覚弁(明暗弁)または手動弁が含まれます。
- 光覚弁とは、暗室にて被検者の眼前で照明を点滅させ、明暗を区別できる視力をいいます。
- 手動弁とは、検者の手掌を被検者の眼前で上下左右に動かし、動きの方向を区別できる能力をいいます。
- 視力とは、矯正視力をいいます。ただし、矯正が不能な場合は裸眼視力によります。なお、矯正視力には、眼鏡による矯正、医学的に装用可能なコンタクトレンズによる矯正または眼内レンズによる矯正によって得られた視力が含まれます。
- 視力が0.02とは、1m/指数弁と関係しています。
- 指数弁とは、検者の指の数を答えさせ、それを正答できる最長距離により視力を表すもので、「1m/指数弁」「50cm/指数弁」「30cm/指数弁」等と表記します。このうち、「1m/指数弁」は視力0.02に、「50cm/指数弁」は視力0.01にそれぞれ相当するものとされますが、それより短い距離については換算は困難とされます。
後遺障害認定のポイント
視力障害の後遺障害認定のポイントは、どのようなものなのか以下で見ていきましょう。
- 矯正視力による後遺障害等級の認定
- 両眼の視力障害の後遺障害等級の認定
- 眼球の外傷を原因とする視力障害
- 視神経損傷を原因とする視力障害
- 視力低下の程度
- 後遺障害診断書の記載
矯正視力による後遺障害等級の認定
矯正視力による後遺障害等級の認定は、以下によることになります。
(1)角膜の不正乱視が認められず、かつ、眼鏡による完全矯正を行っても不等像視(左右両眼の屈折状態等が異なるため、左眼と右眼の網膜に映ずる像の大きさ、形が異なるもの)を生じない者については、眼鏡により矯正した視力を測定して後遺障害等級を認定します。
(2)(1)以外の者については、コンタクトレンズの装用が医学的に可能であり、かつ、コンタクトレンズによる矯正を行うことにより良好な視界が得られる場合には、コンタクトレンズにより矯正した視力を測定して後遺障害等級を認定します。
(3)眼鏡による完全矯正を行えば、不等像視を生ずる場合であって、コンタクトレンズの装用が不能な場合には、眼鏡矯正の程度を調整して不等像視の出現を回避し得る視力により後遺障害等級を認定します。
(4)コンタクトレンズの装用の可否および視力の測定は、コンタクトレンズを医師の管理下で3か月間試行的に装用し、その後に行います。
なお、コンタクトレンズの装用が可能と認められるのは、1日に8時間以上の連続装用が可能な場合とします。
両眼の視力障害の後遺障害等級の認定
両眼の視力障害については、後遺障害等級表に掲げられている両眼の視力障害の該当する等級をもって認定することとし、1眼ごとの等級を定め、併合繰り上げの方法を用いて準用等級を定める取扱いは行わないこととされています。
ただし、両眼の該当する等級よりも、いずれか1眼の該当する等級が上位である場合は、その1眼のみに後遺障害が存するものとみなして、等級を認定することとなります。
例えば、1眼の視力が0.5、他眼の視力が0.02である場合は、両眼の視力障害としては9級1号に該当しますが、1眼の視力障害としては8級1号に該当し、両眼の場合の等級よりも上位ですので、等級認定は8級1号となります。
眼球の外傷を原因とする視力障害
眼球の外傷を原因とする視力障害が、後遺障害として認定を受けるためには、外傷に起因する他覚的所見により、視力障害の存在を証明する必要があります。
そのため、前眼部、中間透光体、眼底部の検査によって立証します。眼球の外傷については、スリット検査、直画鏡検査によって調べます。スリット検査では前眼部と中間透光体の異常を、直画鏡検査では眼底部の異常を検査します。
また、これらの検査で明らかな異常が認められない場合は、電気生理学的検査(ERG)を受ける必要があります。この検査は、網膜に光刺激を与えたときに現れる網膜の活動電位をグラフにして記録したものです。科学的な検査のため、後遺障害の審査では信頼性の高い検査として重要視されます。
これらの検査を受けて、眼症状の原因となる前眼部・中間透光体・眼底部などの他覚的所見について後遺障害診断書に記載してもらいます。
視神経損傷を原因とする視力障害
視神経損傷を原因とする視力障害が、後遺障害として認定を受けるためには、外傷に起因する他覚的所見により、視力障害の存在を証明する必要があります。
そのため、視覚誘発電位検査(VEP)によって、網膜から後頭葉に至る視覚伝達路に異常がないかを調べます。光刺激を与えて後頭葉の脳波を誘発して、脳波の動きを記録します。
この検査によって異常所見が認められれば、他覚的所見として後遺障害診断書に記載してもらいます。
視力低下の程度
視力低下の程度については、万国式試視力表により裸眼視力と矯正視力の両方を検査し、後遺障害診断書に記載してもらいます。
なお、むち打ち症による視力低下については、一般的に、視力障害としてではなく、むち打ち症による神経障害として扱われています。
後遺障害診断書の記載
医師は、診断や治療の専門家であって、後遺障害等級認定を行う専門家ではありませんので、医師作成の後遺障害診断書については、弁護士に相談してアドバイスを受けるか、その内容をチェックしてもらい、過不足のない後遺障害診断書を作成してもらうようにしましょう。
まとめ
交通事故に遭って、眼球そのものに外傷を負い、あるいは頭部外傷により視神経損傷を負った場合、その後遺障害としては、失明や視力低下といった視力障害の等級認定の可能性があります。
視力障害については、眼科や脳神経外科などの専門病院に通院し、後遺障害診断書を作成してもらうことが重要になります。
交通事故に遭って視力障害の後遺症が残り、適切な後遺障害等級認定を受けられるか不安を抱いている方は、是非、交通事故に強い当事務所にご相談ください。