脊髄損傷|後遺障害認定のポイントは?
交通事故に遭い、症状固定時に脊髄損傷の後遺症が残った場合、その症状の内容や程度が、自動車損害賠償法施行令(以下「自賠法施行令」といいます)が規定する後遺障害等級表(別表第1・第2)のどの等級に該当するかによって、被害者が得られる損害賠償金が大きく違ってきます。
被害者にとっては、適切な後遺障害等級認定を受けられるかどうかが重要になります。そのためには、交通事故に強い弁護士に依頼すべきだといわれています。
では、脊髄損傷の後遺症が残った場合、後遺障害認定のポイントは何なのでしょうか。この記事では、脊髄損傷についての基本的な説明および後遺障害認定のポイントなどについて解説します。
脊髄損傷とは
脊髄損傷とは、交通事故などを原因として脊髄が損傷を受け、運動や感覚機能などに障害が生じる状態をいいます。脊髄は、数多くの神経が集まっている組織で、背骨に沿う形で縦に長い構造をしています。
脊髄損傷が生じると、手足の麻痺などの後遺症が残ることもあり、日常生活に大きな支障をきたす可能性があります。
脊髄の機能
脊髄に存在する神経は、手足の動きをつかさどったり、冷たさや痛み、位置などの感覚を自覚したりする働きを有しています。また、排尿や排便、呼吸などについても重要な役割を担っています。
脊髄の各部位は、それぞれ身体の各部位を支配しています。そのため、損傷を受けた部位に応じて症状が現れる部位も異なります。
脊髄損傷の原因
脊髄損傷は、脊髄が傷つくことで発症します。脊髄損傷を生じさせる原因としては、交通事故や転倒、転落などがあります。
脊髄損傷の症状
脊髄損傷が生じますと、手足が動かなくなる、手足の痛みや触られている感触などの感覚がなくなる、といった運動や感覚に関する症状が現れます。
また、手足のどこに障害を受けるかは、脊髄損傷が生じた部位によって異なります。さらに、しびれの症状や、呼吸運動、排尿・排便にも支障が生じることがあります。
後遺障害等級認定の手続
後遺障害等級認定の申請手続には、被害者請求と事前認定の2つがあります。
いずれの申請手続の場合も、損害保険料率算出機構の自賠責損害調査事務所が、自賠責保険会社または任意保険会社から送付された必要書類に基づき、症状固定(治療を続けても、それ以上の症状の改善が望めない状態)時に残存する脊髄損傷の後遺症が後述する後遺障害等級表のどれに該当するかを審査し、認定を行います。
脊髄損傷の後遺障害等級
脊髄損傷で認められる後遺障害等級は、自賠法施行令別表第1の1級1号および2級1号、別表第2の3級3号、5級2号、7級4号、9級10号および12級13号になります。
脊髄損傷の後遺障害等級認定の仕方
脊髄損傷が生じた場合の後遺障害等級は、原則として、麻痺の範囲(四肢麻痺、対麻痺、単麻痺)および程度(高度、中等度、軽度)により、障害が重い場合には介護の要否および程度を踏まえて、上述した7段階に区分され認定されます。
- 四肢麻痺とは、両側の四肢の麻痺をいいます。
- 対麻痺とは、両下肢または両上肢の麻痺をいいます。
- 単麻痺とは、上肢または下肢の一肢のみの麻痺をいいます。
- 麻痺が高度とは、障害のある上肢または下肢の運動性・支持性がほとんど失われ、障害のある上肢または下肢の基本動作(下肢においては歩行や立位、上肢においては物を持ち上げて移動させること)ができないものをいいます。
- 麻痺が中等度とは、障害のある上肢または下肢の運動性・支持性が相当程度失われ、障害のある上肢または下肢の基本動作にかなりの制限があるものをいいます。
- 麻痺が軽度とは、障害のある上肢または下肢の運動性・支持性が多少失われており、障害のある上肢または下肢の基本動作を行う際の巧緻性および速度が相当程度損なわれているものをいいます。
後遺障害認定のポイント
脊髄損傷の後遺障害認定のポイントは、脊髄損傷として後遺障害等級認定を受けるためのポイントはどのようなものなのか、以下で見てみましょう。
- 初診時の診断書
- 身体的所見に関するカルテの記載
- 画像検査
- 麻痺の範囲および程度
- 神経症状の検査
- 排尿障害の検査
- 介護の要否および程度
- 後遺障害診断書の重要性
- 因果関係
初診時の診断書
初診の際、医師に自覚症状を訴えて、その症状を診断書に記載してもらうことが必要です。
身体的所見に関するカルテの記載
麻痺の範囲および程度については、医師がそれぞれの時点で直接観察した身体診察の結果が、身体的所見としてカルテに記載されます。
なお、身体的所見は、他の検査所見を補完できるものです。
画像検査
損傷が生じている部位を特定するため、X線撮影、MRI検査、CT検査の画像検査が行われます。
麻痺の範囲および程度
麻痺の範囲および程度については、身体的所見およびMRI検査、CT検査などによって裏付けられることが必要です。
なお、麻痺の程度は、運動障害の程度によって判断されます。
神経症状の検査
脊髄損傷のため、神経症状に影響が出ているかどうかを確認する検査を行う必要があります。その検査には、筋肉の筋力がどの程度低下しているかを調べる徒手筋力テスト、脊髄損傷に伴う運動量の減少によって筋肉が委縮するため、その筋肉の厚みを調べる筋萎縮検査、膝蓋腱・アキレス腱の先端をゴムハンマーで叩き、筋肉の伸縮を調べる深部腱反射テストなどがあります。
これらをすべて受けるのではなく、医師と相談しながら、発症している症状に合わせて的確な検査を受け、その結果を診断書やカルテに記載してもらいます。
排尿障害の検査
排尿障害が疑われる場合には、排尿検査や尿検査などが行われます。
介護の要否および程度
麻痺が重篤な場合には、食事・入浴・用便・更衣等についての介護の要否(常時介護か随時介護か介護不要か)、介護が必要な場合にはその原因となっている障害の状態について、医師による記載が必要です。
後遺障害診断書の重要性
脊髄損傷に関する後遺障害診断書には、症状固定日、傷病名、自覚症状(被害者の訴えている症状がすべて網羅されていること)、他覚的所見(医師が画像所見や反射・筋力・筋萎縮などに関する神経学的所見によって客観的に把握したことが記載されていること)、検査結果(必要な検査データが表記されていること)、身体的所見の内容が正確に記載されている必要があります。
後遺障害等級認定は、「書面主義」が基本となるため、症状固定時の状態が記載された後遺障害診断書が最も重視されます。
医師は、診察や治療を行う専門家であって、後遺障害等級認定の専門家ではないため、後遺障害等級認定の申請に適した内容の後遺障害診断書を作成できるとは限りません。
その点、弁護士は、適切な後遺障害等級認定が受けられるノウハウに精通しており、後遺障害診断書には自覚症状や他覚的所見および検査結果などが過不足なく記載されている必要があるため、医師にもその趣旨を理解してもらい内容をチェックし、適切な後遺障害診断書を作成してもらうようにアドバイスをすることも可能なのです。
その後、弁護士が必要書類をそろえたうえで、後遺障害等級認定の申請を行うことで、適切な後遺障害等級認定を受けられるのです。
因果関係
後遺障害の等級認定がされるためには、交通事故と脊髄損傷との間に因果関係が認められる必要があります。
まとめ
交通事故により脊髄損傷を負った場合、その後遺障害としては、上述したように、7段階の等級認定の可能性があります。脊髄が損傷された場合には、複雑な諸症状を呈することが多く、麻痺の範囲および程度だけでなく、介護の要否および程度をも踏まえて後遺障害等級認定がなされます。
交通事故に遭って脊髄損傷の後遺症が残り、適切な後遺障害等級認定を受けられるか不安を抱いている方は、是非、交通事故に強い当事務所にご相談ください。