上肢(腕)の後遺症|後遺障害認定のポイントは?
交通事故に遭い、症状固定時に上肢に後遺症が残った場合、その症状の内容や程度が、自動車損害賠償法施行令(以下「自賠法施行令」といいます)が規定する後遺障害等級表(別表第2)のどの等級に該当するかによって、被害者が得られる損害賠償金が大きく違ってきます。
被害者にとっては、適切な後遺障害等級認定を受けられるかどうかが重要になります。そのためには、交通事故に強い弁護士に依頼すべきだといわれています。
上肢に後遺症が残った場合、後遺障害認定のポイントは何なのでしょうか。以下においては、上肢についての基本的な説明および後遺障害認定のポイントなどについて解説します。
上肢とは
上肢とは、腕を支えている肩関節、鎖骨から上腕、手指までをいいます(ただし、本稿では、手指を除いて説明します)。
上肢の後遺障害とは
上肢の後遺障害としては、欠損障害、機能障害および変形障害が考えられます。以下で、一つずつ見ていきましょう。
欠損障害
欠損障害とは、上肢の全部または一部を失ってしまう障害のことをいいます。
欠損障害の後遺障害等級
- 1級3号(両上肢をひじ関節以上で失ったもの)
- 2級3号(両上肢を手関節以上で失ったもの)
- 4級4号(1上肢をひじ関節以上で失ったもの)
- 5級4号(1上肢を手関節以上で失ったもの)
用語の説明(クリックで開閉)
- 上肢をひじ関節以上で失ったものとは、①肩関節において、肩甲骨と上腕骨を離断したもの、②肩関節とひじ関節との間において上肢を切断したもの、③ひじ関節において、上腕骨と橈骨および尺骨とを離断したもののいずれかに該当するものをいいます。
- 上肢を手関節以上で失ったものとは、①ひじ関節と手関節の間において上肢を切断したもの、②手関節において、橈骨および尺骨と毛根骨とを離断したもののいずれかに該当するものをいいます。
- 切断とは、上肢が骨の部分で切り離された状態をいいます。
- 離断とは、上肢の関節の部分で切り離された状態をいいます。
機能障害
機能障害とは、上肢の関節が強直したり、上肢の関節の可動域が制限されてしまう障害のことをいいます。
機能障害の後遺障害等級
- 1級4号(両上肢の用を全廃したもの)
- 5級6号(1上肢の用を全廃したもの)
- 6級6号(1上肢の3大関節中の2関節の用を廃したもの)
- 8級6号(1上肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの)
- 10級10号(1上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの)
- 12級6号(1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの)
用語の説明(クリックで開閉)
- 強直とは、関節が全く動かなくなることをいいます。
- 可動域とは、動く範囲をいいます。
- 上肢の用を全廃したものとは、3大関節(肩関節、ひじ関節、手関節)のすべてが強直したものをいい、上腕神経叢の完全麻痺もこれに含まれます。
- 上腕神経叢とは、首の部分の脊髄から出る5本の神経根が複雑に交差していることを指します。
- 関節の用を廃したものとは、①関節が強直したもの、②関節の完全弛緩性麻痺またはこれに近い状態にあるもの、③人工関節・人工骨頭を挿入置換した関節のうち、その可動域が健側(障害のない側)の可動域角度の1/2以下に制限されているもののいずれかに該当するものをいいます。
- 完全弛緩性麻痺とは、末梢神経の損傷などにより弛緩性麻痺となり、自動(本人が自発的に曲げること)では関節を完全に動かせなくなった状態をいいます。
- 5の②の「これに近い状態」とは、他動(医師が手を添えて曲げること)では可動するものの、自動運動では関節の可動域が健側(障害のない側)の可動域角度の10%程度以下となったものをいいます。
- 10%程度とは、健側の関節可動角度の10%に相当する角度を5度単位で切り上げて計算した角度をいいます。
- 関節の機能に著しい障害を残すものとは、①関節の可動域が健側の可動域角度の1/2以下に制限されているもの、②人工関節・人工骨頭を挿入置換した関節のうち、5の②以外のもののいずれかに該当するものをいいます。
- 関節の機能に障害を残すものとは、関節の可動域が健側の可動域角度の3/4以下に制限されているものをいいます。
変形障害
変形障害とは、上肢に偽関節を残したり、長管骨に癒合不全を残してしまう障害のことをいいます。
変形障害の後遺障害等級
- 7級9号(1上肢に偽関節を残し、著しい運動障害を残すもの)
- 8級8号(1上肢に偽関節を残すもの)
- 12級8号(長管骨に変形を残すもの)
用語の説明(クリックで開閉)
- 偽関節とは、骨折した部分がつながらず、関節のように可動している状態をいいます。
- 運動障害とは、上肢が強直したり、動きにくくなってしまう障害のことをいいます。
- 癒合不全とは、骨折したところが通常の期間を過ぎても、骨癒合(離れていた組織が付着すること)に至らず、不完全な状態で停止してしまうことをいいます。
- 偽関節を残し、著しい運動障害を残すものとは、①上腕骨の骨幹部または骨幹端部(以下「骨幹部等」といいます)に癒合不全を残すもの、②橈骨および尺骨の両方の骨幹部等に癒合不全を残すもののいずれかに該当し、常に硬性補装具を必要とするものをいいます。
- 硬性補装具とは、プラスチックまたは金属製の支柱で作られた装具をいいます。
- 偽関節を残すものとは、①上腕骨の骨幹部等に癒合不全を残すもので、4の①以外のもの、②橈骨および尺骨の両方の骨幹部等に癒合不全を残すもので、4の②以外のもの、③橈骨または尺骨のいずれか一方の骨幹部等に癒合不全を残すもので、時々硬性補装具を必要とするものいずれかに該当するものをいいます。
- 上肢の長管骨に変形を残すものとは、①上腕骨に変形を残すもの、②橈骨および尺骨の両方に変形を残すもの(いずれか一方のみの変形でも、その程度が著しいものはこれに該当します)のいずれかに該当し、外部から想見できる(見て分かる)程度(15度以上屈曲して不正癒合したもの)以上のもの、②上腕骨、橈骨または尺骨の骨端部に癒合不全を残すもの、③橈骨または尺骨の骨幹部等に癒合不全を残すもので、硬性補装具を必要としないもの、④上腕骨、橈骨または尺骨の骨端部のほとんどを欠損したもの、⑤上腕骨(骨端部を除きます)の直径が2/3以下に、または橈骨もしくは尺骨(それぞれの骨端部を除きます)の直径が1/2以下に減少したもの、⑥上腕骨が50度以上外旋または内旋変形癒合しているもので、①外旋変形癒合にあっては肩関節の内旋が50度を超えて可動できないこと、また、内旋変形癒合にあっては肩関節の外旋が10度を超えて可動できないこと、②X線写真等により、上腕骨骨幹部の骨折部に回旋変形癒合が明らかに認められることのいずれにも該当することが確認されるもの、以上のいずれかに該当するものをいいます。
- 外旋とは、正中線から遠ざけるような動き(外側に回転させる動き)をいいます。
- 内旋とは、正中線に近づける動き(内側に回転させる動き)をいいます。
- 回旋とは、体の一部を中心軸に沿って回転させる動作をいいます。
後遺障害等級認定の手続
後遺障害等級認定の申請手続には、被害者請求と事前認定の2つがあります。
いずれの申請手続の場合も、損害保険料率算出機構の自賠責損害調査事務所が、自賠責保険会社または任意保険会社から送付された必要書類に基づき、症状固定(治療を続けても、それ以上の症状の改善が望めない状態)時に残存する上肢の後遺症が上述した後遺障害等級のどれに該当するかを審査し、認定を行います。
後遺障害認定のポイント
上肢の後遺障害認定のポイントは、どのようなものなのか、以下で見てみましょう。
- 機能障害における可動域
- 画像所見
- 後遺障害診断書の記載および添付
機能障害における可動域
可動域制限が生じている場合には、医師に可動域の測定を正確に行ってもらい、後遺障害診断書にその結果を記載してもらいます。
そして、可動域制限の原因となっている器質的損傷(身体の組織そのものに生じた損傷)が、画像所見から医学的に証明される必要があります。
画像所見
交通事故によって、器質的損傷が生じたことは、X線写真、CTやMRI画像によって認められる必要があります。X線写真には映らない損傷もありますので、MRI画像を撮ることが望ましいといえます。
なお、画像上で損傷が認められない場合には、事故との因果関係が否定されることになります。
後遺障害診断書の記載および添付
後遺障害診断書には、上述した可動域の制限や画像所見のほか、症状が事故後から症状固定まで一貫して続いていることについても記載してもらいます。
後遺障害診断書には、①欠損障害の切断および離断部位の図示②変形障害の偽関節および長管骨の癒合不全について、その部位の記載およびX線写真の添付が、それぞれ求められます。
医師は、診断や治療の専門家であって、後遺障害等級認定を行う専門家ではありませんので、医師作成の後遺障害診断書については、弁護士に相談してアドバイスを受けるか、その内容をチェックしてもらうようにしましょう。
まとめ
交通事故により上肢に障害を負った場合、その後遺障害としては、上述したように、欠損障害、機能障害および変形障害の等級認定の可能性があります。過不足のない後遺障害診断書を作成してもらうためには、弁護士のサポートが欠かせません。
交通事故に遭って上肢に後遺症が残り、適切な後遺障害等級認定を受けられるか不安を抱いている方は、是非、交通事故に強い当事務所にご相談ください。