遷延性意識障害|後遺障害認定のポイントは?
交通事故に遭い、症状固定時に遷延性意識障害の後遺症が残った場合、その症状の内容や程度が、自動車損害賠償法施行令(以下「自賠法施行令」といいます)が規定する後遺障害等級表のどの等級に該当するかによって、被害者が得られる損害賠償金が違ってきます。
被害者にとって、適切な後遺障害等級認定を受けるということは非常に重要です。また、そのためには交通事故に強い弁護士に依頼すべきだと言われています。
では、遷延性意識障害の後遺症が残った場合、後遺障害認定のポイントは何なのでしょうか。この記事では、遷延性意識障害についての基本的な説明および後遺障害認定のポイントなどについて解説します。
遷延性意識障害とは
日本脳神経外科学会は、脳損傷を受けた後で以下の6項目を満たす状態に陥り、ほとんど改善が見られないまま満3か月以上続いた状態を「植物状態」と定義しています。
- 自力移動不可能
- 自力摂食不可能
- 屎尿失禁状態にある
- たとえ声を出しても意味のある発語は不可能
- 「目を開け」「手を握れ」などの簡単な命令にかろうじて応じることもあるが、それ以上の意思の疎通は不可能
- 眼球はかろうじて物を追っても認識はできない
遷延性意識障害とは、交通事故などによる頭部外傷によって、脳に非常に重いダメージを受け、昏睡状態になった後、目を開けて物を追うことはあるものの、認識することはできず、意思疎通がまったくできない状態が長く続くことをいいます。
遷延性意識障害は、このように意思疎通がまったくできない状態が長く続くことから、いわゆる植物状態と呼ばれる状態を指すものとして、一般的に、上述した「植物状態」と同じ意味と理解されています。
後遺障害等級認定の手続
以下では、後遺障害等級認定の手続を進めるうえでの留意点などについて見ていきます。
申請手続
後遺障害等級認定の申請手続には、被害者請求と事前認定の2つがあります。
いずれの申請手続の場合も、損害保険料率算出機構の自賠責損害調査事務所が、自賠責保険会社または任意保険会社から送付された必要書類に基づき、症状固定(治療を続けても、それ以上の症状の改善が望めない状態)時に残存する遷延性意識障害の後遺症が後述する後遺障害等級に該当するかどうかを審査し、認定を行います。
申請手続を進める人
遷延性意識障害のように、意思疎通がまったくできず、被害者に判断能力が欠けてしまった場合には、被害者本人が後遺障害等級認定の申請手続をすることはできません。
被害者が未成年であれば、親権者の父母が法定代理人として申請手続をすることはできます。しかし、被害者が成人に達していれば、たとえ父母であっても、被害者の代理人となって申請手続をすることはできません(本稿では、被害者が成人の場合を前提とします)。そのため、被害者に代わって申請手続を進める人(成年後見人)が必要になります。
成年後見人の選任
まず、家庭裁判所に対して、後見開始の審判の申し立てを行います。
家庭裁判所は、申し立てを受けて、親族や被害者らから事情を聴取し、後見開始の審判をすると同時に、最も適任と思われる人を成年後見人に選任します。
成年後見人は、選任後、家庭裁判所の監督のもとで、被害者に代わって、申請手続をすることになります。
遷延性意識障害の後遺障害等級
遷延性意識障害で認められる後遺障害等級は、自賠法施行令別表第1の1級1号「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの」になります。
後遺障害認定のポイント
遷延性意識障害の後遺障害認定のポイントは、どのようなものなのか以下で見てみましょう。
- 初診時の診断書
- 経過診断書、カルテや看護日誌の記載
- 脳波検査
- 画像検査
- 頭部外傷後の意識障害
- 後遺障害診断書の内容
- 被害者の日常生活状況
- 因果関係
初診時の診断書
初診時の診断書に頭部外傷に関する記載があることが重要です。
経過診断書、カルテや看護日誌の記載
経過診断書、カルテや看護日誌には、後述する頭部外傷後の意識障害の経過や程度が確認できるように記載することが求められます。
脳波検査
脳波を用いて脳の活動を確認する検査も必要になります。
画像検査
脳へのダメージを裏付ける画像検査(頭部CT、頭部MRIなど)が重要な判断要素になります。
頭部外傷後の意識障害
遷延性意識障害の状態については、医師が、自分自身の力で動くことができるかどうか、寝たきり状態かどうか、食事を自力でとれるかどうか、排便や排尿を自分で処理できるかどうか、受け答えができるかどうか、意思疎通が可能な発語ができるかどうか、目を開けて物の認識ができるかどうか、意思疎通ができない状態が3か月以上続いているかどうかなどの症状を確認する必要があります。
医師は、その結果を後述する「後遺障害診断書」に記載します。
頭部外傷後の意識障害の程度が重く、持続が長いほど遷延性意識障害を裏付けることになります。
後遺障害診断書の内容
後遺障害診断書には、症状固定日、傷病名、他覚的所見および検査結果などが、必要な検査データ、脳波検査および画像検査によって客観的に把握した内容とともに、正確に記載されている必要があります。
後遺障害等級認定は、「書面審査」が基本となるため、後遺障害診断書の記載が最も重視されます。
ところで、後遺障害診断書を作成するのは医師ですが、医師は診察や治療を行う専門家であって、後遺障害等級認定を行う専門家ではないため、必ずしも後遺障害等級認定の申請に適した内容を記載できるとは限りません。
しかし、弁護士の場合、遷延性意識障害の問題であれば、「果たして上述した1級1号が見込めるか」、「症状に見合った等級が認定されるためには後遺障害診断書にどのような記載があることが望ましいか」などが判断でき、その旨を医師に伝えて、症状に見合った適切な後遺障害診断書を作成してもらうことが可能です。
その後、弁護士が必要書類をそろえ、万全の準備を行ったうえで、後遺障害等級認定の申請を行うことで、遷延性意識障害としての等級認定を受けられる可能性が高くなります。
被害者の日常生活状況
遷延性意識障害の認定にあたっては、被害者が、日常生活において常時介護が必要な状況にあるかは重要な判断要素になります。
因果関係
後遺障害の等級認定がされるためには、交通事故と遷延性意識障害との間に因果関係が認められる必要があります。
まとめ
遷延性意識障害とはどのような症状なのか、後遺障害等級認定を受けるためのポイントは何なのかについては、お分かりいただけたでしょうか。
遷延性意識障害の後遺症が残った場合、適切な後遺障害等級認定を受けるためには、後遺障害等級を正しく判断できるのは知識はもちろん、後遺障害の等級認定に必要な資料を準備できるだけのノウハウが必要です。そんなとき頼りになるのが交通事故に強い弁護士なのです。
ご家族が交通事故に遭って遷延性意識障害の後遺症が残り、適切な後遺障害等級認定を受けられるか不安を抱いている方は、是非、交通事故に強い当事務所にご相談ください。